歌舞伎町アンダーグラウンド/柏原蔵書/★★★☆☆

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2003年の夏、一人のフリージャーナリストが殺された。この著書が出版された直後のことである。顔がわからなくなるほどボコボコに殴られ、刃物でメッタ刺しにされて殺された挙句、鎖で手足を縛られて重りをつけられ、東京湾に沈められた。元々アングラ界に精通していた著者であるが、この本を書くにあたって知りすぎてしまったのだ。その彼が見てきた新宿歌舞伎町の実態が、ここに書かれている。

簡単に言うと、ここに書かれているのは主に歌舞伎町がいかに特殊な街であるかということ。歌舞伎町の金の流れ、そして犯罪組織、非合法ビジネス、外国人勢力、暴力団、風俗、ホスト、非合法ドラッグなどの流通。警察の目をかいくぐる犯罪の数々。リストには載らない死亡者。私が月に数度通っている某遊技場の名前も、ある外国人勢力の関連施設として挙がっていた。これはさすがに驚いた。そして同時に納得もいった。

ブロークン・ウィンドウ理論というものがある。治安の悪い街に、窓ガラスの割れた車とそうでない車を置いておくと、窓ガラスの割れた車はものの数時間で荒らされ、原型をとどめないほどに破壊されてしまう。筆者いわく、歌舞伎町は街そのものが窓ガラスの割れた車なのである。そしてもうここは浄化不可能なレベルになっている。そして私たちもそれを匂いで嗅ぎとっているから、深入りしてはいけないとわかっている。

今まで歌舞伎町の真実がこのように語られることはなかった。それは、それなりの理由があったからに他ならない。真実を語るものは揉み消されてしまうのだ。ドラマや小説ではなく、これは現実に起こっていることだ。

もちろん筆者はその危険性を十分に考慮してこの本を書いた。だから、ここまでは書けるがここからは書けない、という線引きを明確にしている。ディープとはいえ当たり障りのない内容だ。けれども実際は、さらにドープで書けないことの方が多かったはず。おそらくこの本を出版したから彼は殺されたのではなく、その過程における取材活動でトラブルに巻き込まれたのではないだろうか。

自分の意思で奥深くまで入り込んでいかない限り、私たちはそれらの危険をある程度回避することができる。世の中には知らなくていいことがたくさんある。著者は、本書を書いたことを非常に後悔しており、命の危険が迫っているとも書いていた。彼をはじめとしたルポライターやジャーナリストたちは、なぜそこまでするのだろう。「俺がやらなかったら他に誰がやる」という使命感に満ち溢れているのだろうか?それとも暗黒の世界に漂うものに底知れぬ魅力を感じてしまうのだろうか?

私たちにも、それらを垣間見たいという欲求が少なからずある。だからそれを安全に見せてくれるイベントが行われたりするのだ。あのイベントも、もはやバリバリでアウトなレベルに来てるんじゃないかと思う。○ャックさん大丈夫なんだろうか…。彼が殺されたり逮捕されたりしないことを祈りたい。話がそれました。

ちなみに、著者の事件の影響、あるいはそれに関連する様々な事情により本書は絶版になっています。
心より、柏原氏のご冥福をお祈りします。