スキップ/北村薫/★★★☆☆

スキップ
北村 薫
新潮社 (1999/06)

簡単に言うと、17歳の一ノ瀬真理子がある日突然スキップ(早送り)されてしまう話。設定が面白い。

るてえる びる もれとりり がいく。ぐう であとびん むはありんく るてえる。

10年経った今でもそらで言えるこのフレーズは、草野心平の『蛙の詩』の冒頭。どこの国の言葉でもない「草野流かえる語」なのだけど、私はこれを学生時代に舞台でやって以来、今でもなお口が覚えている。物語の中でこのフレーズが出てきて、多少物語にからんでくるとはいえそんなに重要ポイントではないのだけど、あまりの懐かしさと嬉しさに思わず反応してしまいました。

北村氏はもともと高校教師だったそうで、経験に基づいているせいか数々のエピソードが詳細かつリアル。文化祭や体育祭や恋やフォークダンスや友だちや受験やテストや授業や部活や出席簿や週番日誌や職員室やホームルームや購買や、もちろん10代の自分という、もう絶対に取り戻せない過去のアレやコレが手に取るように、そして芋づる式に思い出され、そうこうしているうちに、記憶の扉が開きっぱなしになったまま思い出迷子から帰って来られません。

なんだろうなあ、ほんの些細な他愛のないことだったり、うわ、なんでこんな場面で?!という箇所で熱いものがこみ上げて、不覚にも泣けてきてしまった自分に動揺しました。桜木先生が作詞した歌を先生方が歌うシーンとか。たぶんこれは自分がどんな高校時代を送ったかによって読み手ごとに異なるものかもしれない。でもやっぱり学校というシステムはいつの時代もそんなに大きく変わることがなくて、世代が多少違っても共通言語はあると思う。だからきっと誰が読んでもグッとくるポイントはあるんじゃないかしら。バレーボール大会のシーンなんてドキドキしながら見守っちゃったよ。ああそれにしても私の高校の3年間は、人生においてなんと濃密な時間であったのだろうか!

細かいことを言えば、物語が突如飛んで「あれ? この問題はいつの間に解決したの? 読者の想像に委ねるの?」という疑問が何度も出てきて、結局その辺がうやむやにされてるところがストレスかな。あとはまあラストです。私には<以下ネタバレ>納得がいかん。42歳だった桜木先生はじゃあ一体どこに行っちゃったんだ。タイムスリップみたいな捉え方をしてたけど、実際のところは記憶喪失ってことで片付けられちゃうのかな…? 確かに桜木真理子として生きていく上で得る物はたくさんあっただろうけど、失われたものがあまりに大きすぎる。それに、現状を受け入れて生きていくしかないというのが現実なのかもしれないけれど、やっぱりどうしても残酷すぎる。ダンナの桜木さんもまったく救われてないし。というか彼の中では『記憶喪失の(と認識して)妻を一生温かく見守っていく』ということになってるの? 娘の美也子は自分を生んだ記憶を失くした母親をどう捉えて生きていくの? うーん、考え始めたらやっぱり穴だらけでしっくりこないん</ネタバレ>だよなあ…。