13/古川 日出男/★★★☆☆

自分の目で見えている色が、他の人にとっても同じ色かどうか。それを確かめる術はない。

友人に色覚異常の人がいるのだけど、グレーだと思ってピンク色の服を買って帰り、家族に驚かれた、というエピソードを話してくれたことがある。グレーとピンクは違う色なのに、同じに見えるってことがすごく不思議だった。どんな風に見えてるのかとても気になった。まあそれは彼のコンプレックスだったので、それ以上突っ込んでは聞かなかったけども。

色覚異常(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%89%B2%E7%9B%B2

両目の異常の場合は検査や、もしくは友人のような経験をしなければ気付かないけど、片目だけの異常の場合は同じものなのに右と左とで見える世界が違うということになる。本人は困ることかもしれないが、とても神秘的だ。

だから私はこの物語の主人公が左目だけ色覚異常であるという設定に強く心惹かれた。しかも響一は、それに加えて幼少の頃から知能の発達が早く、周りから天才児と呼ばれていた。物心ついてからの彼は自分が人と違うことを気にしてその能力をひた隠していたが、ひょんなことから16歳でザイールへ渡ることになる。

その後、才能あるクリエイターたちがお互いを呼び寄せるように集まり、最高の映画をつくりだすことになるが…。


はっきり言って、この物語そのものはあまり満足いくものではなかった。けれど、響一の経験は非常に興味深いものだったし、マーティンとココ・ココの製作した映画は是非とも観てみたくなった。伝説のバンドの曲も聴きたい。文章だけでこんなに五感を刺激されるなんてすごいのかもしれないけど。でも、とても魅力的なものがそこに並べられているのに、体験することができないなんて非常にくやまれる。

それと、オカルト的なエピソードやキリスト教の布教、ザイールの国勢なども盛り込まれていたけれどその辺はあまり興味がなかったので若干苦痛だった。

全体的に、前編のボリュームが大きすぎて後編になってからの尻すぼみ感が強く、結局「…で?」という感じに終わってしまったのが残念。

とはいえ、古川日出男はもう何冊か読んでみたい。