東京夜話/いしい しんじ/★★★★☆

東京夜話
いしい しんじ
新潮社 (2006/11)

私の中のいしいしんじ像が、どんどん変貌していく。

プラネタリウムのふたご
 こんなファンタジーを書けるなんて…どんな王子様かしら? キラキラ!
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ブログを読んで
 …ん? なにやら不穏な空気が…。変人かつオッサンの片鱗が見え隠れしているような気がするも、気付かないフリ。
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人生を救え!」 「その辺の問題
 どことなく違和感。ほのぼのというより、どろーんと泥くさいサブカル臭がプンプン。
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トリツカレ男」 「ぶらんこ乗り」 「麦ふみクーツェ
 うんうん、相変わらず素敵だわー。ぽわわん
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アムステルダムの犬 だ、だいぶ印象が…ガンジャと酒に溺れ、缶ビールを文字通り「浴びる」オッサンの図が…。お、王子様どこー
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東京夜話
 あーいたいた、私の…王…オッサン? というかもうここまでくると9割がたオッサン。しかもブッ飛んでる。まあ嫌いではないけど…うーむ…。オッサンか…。 ←いまここ

小説がいいなあと思った人のエッセイは極力読まないようにしている。なぜか同じ著者のエッセイを読むと毎回何か落胆に似た感情を抱いてしまう。たぶんこれって現実逃避なのだろうけど、小説を読んだときの幻想を保ち続けたい。落胆したくない。だからエッセイは読まない。そのふたつを同時に楽しむことが出来ないので損である。
そう思っていたはずなのに、知らずにうっかりいしいしんじの(正確には対談型)エッセイを読んでしまった。あーやっぱ違う…と思いつつもせっかくなのでいしいしんじ作品をコンプすべく読み進めるうち、そのふたつのイメージ("すてきファンタジーを紡ぎ出す王子様"と"酔いどれのオッサン")がどんどん混ざり合って、最終的にどっちがどっちなのかわからなくなった。

この「東京夜話」は、ファンタジーなのにエッセイ、いや待てよやっぱり小説、みたいな絶妙なミックス感があって、物語と現実の境界線があやふやになっている。解説で書かれていたように、「いしいしんじはいろんなものの境界線をなくそうとしている」と言われればそうかもしれない、と思えるような内容だった。
私にとってのいしいしんじはもう王子様ではなくただの変なオッサンなのだけど、オッサンの紡ぎ出すファンタジーっていうのも何だか妙ちきりんでいいかもなあ、というところに落ち着いている。