おとうさんといっしょ/川端 裕人/★★★☆☆
先日子ども産んだんですよ。で、退院して、ものすごいスピードで毎日が過ぎていった。睡眠不足と授乳の痛みで体力も限界に近づき、精神的にもかなりつらくなってきたところへ、夫がこの本をすすめてくれた。眠る我が子を抱っこしながら、片手でページをめくる。
「頑張り過ぎないように」と自分で言っておきながら、いつの間にかガチガチになってたみたい。100パー子育てに専念しなきゃ母親じゃない、みたいな。でも、本読んでひと息ついたらだいぶ楽になった。自分の時間を作ってこそ、精神的余裕で子育ても頑張れるってもんですな。
父親視点で描かれた3つの短編。もっとほんわかした子育てモノかと思いきや、かなり毒のあるものばかり。ここに出てくるヨメたちはみな育児よりも仕事を取って、あまりにそれが自分勝手に見えるので夫たちの負担がどんどんつのっていく。私も一緒になって、「なんてひどい母親! 自分勝手すぎる!」と鼻息荒く読み進めた。
ここに出てくるヨメは夫が納得してなかろうが自分のやりたいことを貫くタイプ。で、夫が悩む。ヨメが働きに出るのが悪いことなのではなく、この夫婦のパワーバランスがよくないんだろうな。性質もあるだろうけど。まあ、この物語のようにあっけらかんと育児放棄して、父親の負担が大きい例は少数派でしょう。世の中の働く母親の多くは、断然もっと負担してると思う。
個人的には、子育ては夫婦一緒にやりたいと思っている。そもそも父親と母親では役割が違うから、育児のすべてをきっちり半分に分けるつもりもないし、分ける必要もない。というか、“分ける”とかそんなドライなかかわりじゃなくて、一緒にやったらええねん。我が家は私が望んで専業になったので、物理的に大半が私の役割なのは当たり前。だけど、二人の子どもだから、特に気持ちの面で夫にも子育てをしてもらえればいいと思う。当然夫もそのつもりだと思う(ちゃんと納得しててくれればいいけど)。子育ては生ものだから、その都度夫婦でちゃんと話し合って、ちょうどいいバランスを探りながらやっていければいいなあと。
風の歌を聴け/村上 春樹/★★☆☆☆
古い映画を観ているような気持ちで読んだ。私があまりにも『ノルウェイの森』を絶賛するものだから、夫がオススメしてくれた村上春樹の原点。展開が断片的だから映画のように感じたのかも。あとやっぱり情景がちゃんと脳裏に浮かぶ。これがデビュー作と考えると、すごいのかも!という気がしてきた。これを受けてフォロワーがたくさん出たのにもうなずける。
鼠って、『ノルウェイの森』のワタナベ君なのかも?と思ったり思わなかったり。若干エピソードが違うから、同一人物ではなくて似てるだけなのかもしれないけど。ただ残念なことに、"鼠"の文字を見るたびに"鼠先輩"が脳裏に浮かんでしまい、台無しになってしまった。時期が悪かった…。これだけが心残り。鼠先輩を忘れた頃に再読したい。
若くして自ら命を絶つエピソードがあり、心を病んだ人がいて、常に死の喪失感が作品全体に漂っている。これが春樹作品の特徴なのか。春樹信者はこういうところにシンパシー感じるんだろうな。時代性にもマッチしてただろうし。
自分の親世代が送った青春時代がテーマなので古くさい。だがそれがいい。音楽も時代を反映していて。随所に出てくる音楽を知っていれば、もっと映画のように楽しめたのかもしれない。
優しい音楽/瀬尾 まいこ/★★☆☆☆
結論から言うと、瀬尾まいこは好きだけど、この作品は最初からずっと違和感があってダメだった。
3つの短編全部に共通していたのが、登場人物の女に対してどうしてもムカついてしまうということ。これって、作者の狙いなのかな? 千波も深雪もはな子も、まったくもって好きになれないキャラ。相変わらず文体は好きだし、意外性という意味では面白い設定だとも思うけど、謎めかせすぎて、もったいぶるところにイライラする。
それと、個人的に私が、天然っぽい子や"ちょっと変わってるアタシ"みたいな女が嫌いだから、余計にイラついたのかも。あと男性の扱いがひどい。よくそんな女と付き合っていられるなあという。あと解説がひどい。
なので今回はハズレだった感が強い。次の作品を楽しみに待つことにします。
楽しい終末/池澤 夏樹/★★☆☆☆
池澤夏樹なら外れはないかと思い、内容を確認せずに読み始めてしまったのだけど、小説じゃなくてエッセイ(というか論評)だった。小説しか知らなかったけど、この方、ものすごくお堅いことを書く人なんですね。
1990年に池澤氏がまとめた彼なりの終末論。なんと20年近く経った現在でも、世界はほとんど状況が変わっていない。多岐にわたって書いているようにも見えるけれど、それらは複雑に絡み合っているし、結局ひとつのことにたどり着く。地球が終末に向かっている中で、世界はどうあって、私たちは何を考え、どう生きるのか。
地球って、もっと果てしなく大きくて、何でも包み込んで浄化してくれるようなものだと信じて疑わなかった。自分たちのしたことが、地球をどうにかしてしまうだなんて思いもよらなかった。でも今はそうではないと知った。
だから、私は私ができることをやっている。今やっていることは続けたいし、これから先できることがあればやるだろう。破滅に向かっている人間や地球に、少しでもブレーキをかけられれば。それが少しでも地球のため(=我が子や、孫や、もっと後の世代のため)になるならば。私はこの問題にはそういうスタンスでしか関われないと思っている。みんながそう思えばいいに決まっているけれど、それは到底無理な話だろう。そして、それは仕方のないことだと思う。
どれだけ知識を深めても、あるいは何一つ知らなくても、最終的にはサハリンの老人のような心境に行き着くのかもしれない。同じ結論に達するのであれば、その過程をどうするかは自分次第。終末を待つ間に、家族と穏やかに暮らしたい。池澤氏がそう述べたときにはなんだか当たり前すぎて普通すぎて拍子抜けしたが、きっと私だってそうなんだろう。けれど、せめて、そのプロセスにおいて自分が前向きに働きかけたことによる自己満足を携えて、この世を去りたいとは思う。
いろいろ書いているうちに、なんだかどんどん胡散くさいというか嘘くさいというか、道徳の教科書めいてきて気持ちが悪いですね。こういうテーマは。
ゆめつげ/畠中 恵/★★★☆☆
ノルウェイの森/村上 春樹/★★★★★
15年ほど前に一度読んだきりで、内容をビタイチ覚えていないんです。が、今度映画化されるっていうんで、再読することにしました。映画の監督はトラン・アン・ユン。『青いパパイヤの香り』や『夏至』の人です。私は彼の作品が大好きで、村上氏も彼ならば、と映画化を了承したというのだから観ないわけにはいかない。そのための予習というか復習という意味合いでの再読。
結論から言うと、ノルウェイの森、素晴らしいです。そんな簡単な言葉で表すのがふさわしくないくらい。
少なくとも私が30余年生きてきて、一番心を大きく揺さぶられた作品であることは確か。今、この歳で読んだということが重要なんだろうな。内容を一ミリも覚えていなかったことからもわかるけど、10代の私は"村上春樹を読んでいる自分"に酔っていただけであり、人生経験も乏しく、つまりは非常に若かった。おそらく、読み終えても「ふーん」ぐらいにしか感じなかったのだと思う。けれども時を経てこの歳になって、まったく違った感じ方ができた。
死とは生の対極ではなく、生に付随したものであることや、人を心から愛するということなど、自分が経験したからこそ実感できることが多かった。あと、随所に出てくるメンヘラーたちのエピソードね。これも、そういう人にかかわったことがあるかないかで感じ方が全然違ってくるし。
あと、描写が映像でスッと入ってくるのが不思議だった。こんなに昔の物語なのに。さすがトラン・アン・ユンが目をつけただけあるなと思った。ただし映画はキャストが日本人なので、配役によっては地雷の可能性も否めないのだが…。話は逸れるけど、日本の作品に感銘を受ける外国人って何だか不思議。私が外国の作品まったくダメなので。
読後、気持ちが高ぶって眠れず、訳もなく涙があふれて、しばらく離れて暮らしている夫に電話をかけて長い話をした。今この作品を読み返してよかったと思う。やっぱり村上春樹はすごいわー。夫が春樹ストなので、彼の薦めで最初の著作から順に読むことにした。
南の島のティオ/池澤 夏樹/★★★★★
なんとなく手に取ったら、これが大正解だった。私はこの手の児童文学が大好きだし、改めて池澤夏樹好きだーって思った。実は『君が住む星』がキザすぎて、なんか違うーと思っていた矢先だったので。初めて『マリコ/マリキータ』を読んだときのあの感覚に近いものを、今回感じられたので安心した。夫は『マリコ〜』と『ティオ』は毛色が違う、と言っていたけれど、私の中では同じ色分けなのでまったく問題ないです。
南の島に住むティオが語る、10篇の物語。精霊と自然に包まれた美しい島。文明もそれなりに発達しているからこそわかる、大自然とのかかわり。不思議な出来事や事件。透明感のあるちょいファンタジーで、少しだけ毒がある、ってのが好みなのかも。
私は、いや、読んだ人はみんなそうだと思うけれども、カマイ婆が好きだ。そして、常に自分に正直で、等身大であり続けるティオも好きだ。いわば、ブレない人。
できればわが子にはこういう作品を読んでほしい。ここから自由に何かを受け取って育ってほしい。そう思えるような、そして自分自身の心が洗われるような作品だった。
いい時期にいい本を読んだ。