七つの死者の囁き/有栖川 有栖 石田 衣良 鈴木 光司 小路 幸也 吉来 駿作 道尾 秀介 恒川 光太郎/★★★☆☆

七つの死者の囁き (新潮文庫)
有栖川 有栖 石田 衣良 鈴木 光司 小路 幸也 吉来 駿作 道尾 秀介 恒川 光太郎
新潮社

7人の作家たちによる短編集。もっと怖い話なのかと思っていたら、そうでもなかった。不思議な話も含まれてる。

個人的には、恒川光太郎の「夕闇地蔵」が秀逸。地蔵助の特別な能力と、語り口の淡々さ、戦後すぐの田舎の描写などが相まって、幻想的で独特の雰囲気をまとっている。「同じものが他の人とは違って見える人」という設定が好きなのかも。恒川氏を初めて知ったのだけれど、他の作品も読んでみたいと思った。コンピレーションはこういうところがいいですね。

次点は道尾秀介の「流れ星のつくり方」。ただ、犯人が納戸に身を潜めていたとしても、あの男の子の目が見えないということに気付いたのだろうか? そこだけが疑問。

純粋に怖い話として怖かったのは、吉来駿作の「嘘をついた」。夜の森の首吊り死体写真とかものすげー怖いっつーの。子どもの頃、理科研究で夜の山の中に入って星を見たことがあるんだけど、その際に懐中電灯で木々を照らしたらなんかものすごく怖かったのを思い出した。

 ホームタウン/小路 幸也/★★★★☆

そうとは知らずに読み進めたらどんどんハードボイルドになっていくので驚きました。えー!そっちかー!みたいな。失踪した妹とその恋人を探すうち、やたら風呂敷が広がっていくのでどこまで踏み込んで、どうやって収束させるのかなー、って思っていたんですが、まあ、何ともぬるい感じでまとめましたね。予定調和だよねー、という気持ち。

ともあれ、カクさんがかっこいい。一見普通のおじいちゃんなのに、多方面に顔が利いて謎の権力があって、あらゆる機器を駆使して特別任務をスピーディーにこなすスーパーおじいちゃん。あと、柾人は完璧すぎてちょっとあり得ないかな。いや、かっこいいけども。カクさんのかっこよさには到底かなわない。


冒頭からずっと繰り返されている、「おれたちは人殺しの子だ」というフレーズがどうしてもしっくりこなかった。その理由が明らかになってからも、えー、それって“人殺し”っていうのかなあ、いやいうんだろうけど、と、“すとん”とは納得できなかった。これに言及するたびに、「だからさー、それって、うーん」と萎えてしまう。この件がすんなりしてくれさえすれば、もっと楽しめたのにと思う。

あと本編にまったく関係ないところでパルプ町がちらっと出てきた。パルプ町って北海道にあるのか。小辞作品には必ずといっていいほどパルプ町が出てくる(そこが舞台のものもある)ので、「お」と思った。

 彼女は存在しない/浦賀 和宏/★★☆☆☆

学生時代(10数年前)、多重人格を卒論のテーマにしようとしたことがありました。その当時はとってもそういうこと(多重人格や心理学や精神異常や脳の不思議など)に興味があったので、それっぽいテーマの本を読み漁ったりしてたなー、と懐かしい。とっくにマイブームが過ぎ去っている“もういいよ”感もさることながら、20歳そこそこの自分の自意識過剰なところとか、当時の怖いもの知らずの若さにまつわるエピソードなどが思い出されて、何とも痛々しく全身かゆい気持ちで読み終えました。そういう記憶の扉を開いてしまうような、稚拙な文章だったというか。

あと、トリックに関しては中盤で大体予想がつくのだけど、まさかそうなるとは思ってもみませんでした。クライマックスはまだかまだかと思っているうちに終わってしまった感。えええー。あとね、解説で某有名作品にも引けを取らないとか書かれてますけど、それはないわー。

あ、卒論ですけど、かなり専攻とかけ離れているので、結局適当に落としどころを見つけて別テーマで書きましたよ。どうでもいいか。

 うそうそ/畠中 恵/★★★☆☆

ここのところ、眠るわが子の傍らで本を読むことが習慣になりつつある。満たされてるわー、と思う瞬間。

しゃばけシリーズの続編。『しゃばけ』、『ぬしさまへ』、『ねこのばば』、『おまけのこ』、ときて『うそうそ』は5作目。1作目の「これ好きかも!」という好印象から、だんだんそれが下降してきた感があったのだけれども、『うそうそ』はこのシリーズ初めての長編ということもあり、楽しめた。

若だんなが初めて旅に出て、旅先で事件に巻き込まれる。雲助の新龍を筆頭に、人に出逢い、妖怪やら不思議な存在が出てきて、やっぱり鳴家は一匹欲しいなと思ったりしつつ、日本昔話的なファンタジーを堪能しました。なんか対象年齢が下がってきたんじゃないだろうか。子どもでも楽しめるような気がする。


なにやら実写でTV放映された(特番で)らしいですね。アニメならもしかしたら観たかもだけど、実写には興味ありません。

 妖怪アパートの幽雅な日常1/香月 日輪/★★☆☆☆


夫が「これは好き寄り」と薦めてくれた妖怪モノ。残念ながら私にはラノベが過ぎた。マンガのノベライズみたいな印象。辞書に載ってないような若者言葉*1で「生きること」とかについて語られると、鼻白んでしまうのは私の器の小ささゆえでしょうか。中学生ぐらいの歳で読めば楽しめたのかもしれない。うーん、この辺の好みは分かれるなあ。





*1:「さり気に」とか

 イルカ/よしもと ばなな/★★★☆☆

妊娠、出産がテーマだというので。相変わらずのばなな節は心地よいのだけど、前半がもたついていてかったるい。無駄なページ稼ぎのようにさえ思えてしまったほど。それでいて後半は展開がスピーディーすぎて説明が少なく、物足りない感。全体のバランスが悪いように思えた。でもばなな信者なのでフィルターかかってます。

夫も好きかなーと思って薦めてみたのだけど、どうやら合わないっぽい。残念。

 ララピポ/奥田 英朗/★★★☆☆

a lot of people=ララピポ、というのが一番面白い点だった件。

奥田英朗はあんま頭を使わずに読めるので気が向いたら手に取る。今回は完全にタイトル買い。中身はまあ、エロとそれにまつわるブラックなエピソードの短編集で、それぞれの主人公がそれぞれに病んでいて、1冊を通してどこかで絡み合ってるという。
いけてない人ばっかりが集まっているせいか、カラッと描かれてはいるけど、いやーな気分になりました。人間の心の闇みたいな部分とか、どこかしら核心を突いていて。奥田氏ってそういうのがうまいと思う。