センセイの鞄/川上 弘美/★★★★☆

ずっと気になっていたのに機会を逃していた作品。全体のタッチがすごく好き。

ツキコは高校時代の国語教師と再会し、酒やつまみの好みが合うということもあってよくふたりで飲むようになる。約束をするでもなく、居酒屋で会ったときだけの仲で、そのつかず離れずの絶妙な距離感が、いいなあと思う。時折居酒屋以外の場所、たとえば八の市に出かけたり、きのこ狩りに行く羽目になったり、そういう“ちょっとした非日常”なイベントが織り込まれるのも乙だ。

けれども、後半に差しかかるにつれ不穏な空気が流れてくる。これはもっとも私が望まない展開であった。<ネタバレ>ツキコは石野や小島の登場により、焚きつけられるようにセンセイと恋愛関係になってしまう。私はここでひどく落胆してしまった。このふたりの素晴らしい関係に、何をしてくれるねんと。そういう色恋を、ツキコとセンセイの間には挟んでほしくなかった。百歩譲って挟んだとしても、結局何もなくラストを迎えてほしかった。それぞれの気持ちが焦がれているのはいっこうに構わないが、結ばれないからこその美しさが似合うように思うから。</ネタバレ>

なので、後半以降ラストまで、非常に不快だった。それだけが残念で仕方がない。