神様がくれた指/佐藤 多佳子/★★★★☆

東京を離れて田舎に引っ越しました。引っ越したばかりで本の整理が済んでいないということもあり、地元の図書館で借りてみた。図書館に足を踏み入れること自体、ものすごく久しぶり。でもそんなに品揃えはなさそう。


出所したばかりのプロのスリ、辻牧男は、帰宅途中に若者のスリ集団に遭う。あまりの屈辱にその集団を探していくうちに、どんどん話は絡み合って行き…という物語なのだけど、これがとにかく面白かった。佐藤多佳子って、こういうのも書ける人なんだー。『しゃべれどもしゃべれども』しか読んだことがなかったから、ものすごく意外だった。伊坂とかもそうだけど、犯罪者をかっこよく描く物語は嫌いじゃない。ちゃんと哲学や美学を持っていて、紳士的な一匹狼の泥棒が主人公だったりすると特に。んでいいスリと悪いスリが出てくるから、いい方を応援したくなっちゃう。もちろん犯罪にいいも悪いもないのだけど、連係プレーの美しさとか惚れ惚れしちゃったりする。
それにしてもスリの手口が細かくリアルに描写されていて、佐藤さんよくここまで調べたなあと変な部分で感心。

そうそう、早田咲のキャラはベタすぎるのでムカつきますね。もっすごいイライラする。ふた昔のドラマ見てるような気分になりました。

ラストシーンの竹内・辻ペアのやりとりは緊迫感があって、固唾をのんで成功を祈っていた。捕まらないで! とハラハラ。ハルと辻は同じだというけれど、私は全然違うと思う。天性の才能を持つという点では共通しているが、やっぱりハルは決定的に何かを欠いた人間だ。や、もちろん辻だって犯罪者だからダメなんだけど。マルチェラもまた、他人に必要以上の世話を焼くという意味では良い人かもしれないが、やっぱり基本はダメ人間だ。

この登場人物たちは極端な例ばかりだけど、人間、何が良くて何がダメなんて考え始めたらよくわからんもんですな。誰しもがそういうダメな部分って持ってるし。ちなみに私のダメなところは、ダメ人間を引き寄せて引きずられてしまうところです。ダメな人って、ある意味魅力的なんだよね。