空を見上げる古い歌を口ずさむ/小路 幸也/★★★★★

解説に「“かつての”少年少女のための児童文学である」とあるが、まさにその通りだと思う。不思議なノスタルジーに浸りたいときには最適だ。

周りの人すべての顔が“のっぺらぼう”に見えてしまうという彰の告白を受け、伯父の恭一は自分が体験してきたことを語り継ぐ。その物語は小学生の頃の恭一の、ひと夏の不思議な体験と片付けるには謎が深すぎた。
一体誰が敵で誰が味方かわからない中、おまわりさんだから信用していいとは限らない。次々と人が亡くなり、行方不明になり、豹変していく。恭一たちが交番に相談しにいくシーンは本当にハラハラした。だめーーーー喋っちゃだめーーーーにげてーーーーと何度思ったことか。

『高く遠く空へ歌ううた』を先に読んでしまってから、実はそれがこの『空を見上げる古い歌を口ずさむ』の続編だったと知り、微妙に残念な気持ちになった。実際にはスピンオフなので単品で読んでも十分に楽しめるのだけど、とても好きになれそうな作家なので、せっかくならデビュー作から読みたかったな、という。『高く遠く〜』を読んだときに感じた、独特で透明感のある世界に吸い込まれるような、あの感覚が私はとても好きだ。この作家の著作は全部読もう、と思える人に出会えたのは久しぶりだ。

『空を見上げる〜』を読み終えた今、『高く遠く〜』を再読して、共通する登場人物たちをもう一度楽しみたいという気持ちになった。まあ、気が向いたらだけど。