明日の記憶/荻原 浩/★★★☆☆

バリバリのやり手管理職が若年性アルツハイマーにかかり、職を失い、どんどん記憶がなくなって(後退して)いく話。この手の物語は興味はあるけれどあまりに結末が哀しいので、読むときはエネルギーが必要だ。なのに、体調の悪いときに読み始めてしまったので精神的にどーんと来てしまった。

記憶を失っていく側の主観というのを想像したこともなかったけれど、一番焦ったり落ち込んだりするのは“わからなくなる自分”の自覚がある初期だけで、あとは案外幸せそうなんだなー、という気がした。いや、周りの人は本当に大変だと思うけど。主人公が「忘れないように」と書き続ける日記に誤字脱字やひらがなが増えていく過程、一日の日記に同じことを何度も書いてしまうところなんて、読んでいて胸が締めつけられる思いだった。アルジャーノンを思い出した。

もう結末はわかりきっているし、あとはその過程をラストまでなぞるだけなんだけれども、著者の描き方が割と「明るめドライ」といった表現なので、それが余計に切なさをあおる。妻が、長年連れ添ってきた夫に「こんにちは、はじめまして」と笑顔で挨拶されるなんて、どんな気持ちだろうか。自分が、あるいは夫がアルツハイマーにかからないという保証はどこにもないというのがまた、底知れぬ不安を残す。やっぱ読むべきじゃなかったわー。