ロマンス小説の七日間/三浦 しをん/★★★★☆

以前、同著者の「月魚」を読んであまりのBLっぷりに若干あれれ?と思ってしまったのですが、恋人に「三浦しをん読むならこれを」と薦められたので読んでみました。もう三浦しをん=BLという固定観念ができてるかも…と不安だったのですが、そんなことありませんでした。というかまあこれもこれでかなり変化球だけど。

海外小説を翻訳するあかりとその恋人神名(カンナ)の恋愛模様と、あかりの訳す中世のラブロマンスが交差していくという奇妙な作りになっている。とはいえあかりは神名に対する不信や疑念などから心がささくれ、訳すはずの物語に八つ当たりしてどんどん自分勝手に創造してしまうのだけど。

それにしても、神名はひどい。ある日突然会社を辞めてきて、携帯を解約して、さらに海外に3年も放浪するなんて話を、自分以外の人はみんな知っているってことを周りから聞かされたときのショックといったらアナタ。一番近くにいると思っていた人が一瞬にして一番遠く感じる。それってすごく大切なことだと思うんだけど、神名がそれをあかりに黙っていた理由がイマイチよくわからないからなんかイラつく。たとえ神名がどんなに料理が上手でも、それとこれはプラマイゼロにはならない。料理は…まあ…いいなあ…角煮、おいしそう…って、だまされないんだから!(何にだ) とまあ、そんな具合にわりかし犬も食わない感じであかりサイドの話は終結してしまうんだけど、ハーレクインさながらの翻訳小説の方はものすごいことになってて驚きました。

まあこの小説の醍醐味は、おそらくあかりの心情によって大幅に左右される翻訳小説側の物語にあるんだろうな。まああのラストはないこともないんだけどね。担当の佐藤さんはさぞかし大変でしょうなあ。

あと本編に関係ないしこれはまったくの個人的好みなのですが、私は著作の内容と著者の人柄が乖離してしまうのがイヤなので、基本的に本人によるあとがきがあまり好きではありません。だから同じ人が小説とエッセイを書いていたとしても、エッセイは読みたくないと思ってしまうタチです。素の状態の役者を見たくないというのに似た感覚なのでしょうか。