狂骨の夢/京極 夏彦/★★★☆☆

先月9日に読み始めて、この1冊を読み終えるまで丸々1ヶ月かかりました。1日あたり約30分(通勤時に読める正味時間)を読書にあてているのですが、今月はそれでも結構すいすい読み進められた方だと思っていたので実際こんなにかかっていたなんてショックです。最近京極ばかりを読んでいる某氏は、私が1冊読み終える間に月に6冊とか読んでて、自分でも「読むの早いからなー」とか言ってますが、それにしたってそんな大差を見せつけられるとへこみます。ひと月に京極を6タイトルも楽しめるだなんて羨ましすぎる。まあ、私は私のペースで読むほかないのですが。

さて魍魎のときは木場修が主人公だったので今回はぜひとも榎木津を、と思っていたのですが無理でした。というか榎木津メインの物語なんて想像がつかないわ、そういえば。狂骨は誰が主人公、っていう明確なものがなかったし。しいて言うならいさま屋かな? 以下、ネタバレあり。


<ネタバレ>
朱美と民江、このふたりの名が出てきたときに「あ、これはどっちかがどっちかを語ってるんだろな」とおぼろげに予想していたんですが*1、結果として遠からずで、でもまさか一柳さんの奥さんが本物の朱美だったとはね! 一柳さんの奥さんはかなり重要人物だろうと思ってたけど、この展開はものすごく驚いた! このテの予想はたいてい誰もがしてるし、こんなの当たった内に入らないんだけどでもやっぱ「ちょっとは当たった」的な喜びがあって。でも、解明されるに従ってあまりに綿密に練られてるもんだから「ちょっと当たった」って思うのも恥ずかしくなってきて、結果手放しで「いや、プロはやっぱすげーわ」って思う。職人技見せられたときの感動。階層がもっすごい深い。

あと民江は語ってるんじゃなくて自分のことを朱美だと本気で思っていて、それは多重人格とはまた違うんだけども、さすがにそこには思い至らないわー。うぶめのときは涼子が梗子になってたり(多重人格)、魍魎では頼子が加菜子になりたがったり、京極作品のなかで誰かが他の誰かになる(なろうとする)というのはひとつのテーマなのかもしれない。それにしたって宇多川が死んでしまったのは本当に切ない。民江(偽朱美)の一番の理解者であったのに。そしてまあ、堅造の考えた復讐(一番大切なものを奪う作戦)は完璧だったということなんだけど。それと、失認症については私も興味を持っている分野なので面白かった。
</ネタバレ>


今回京極堂は留守で、最後までじらされまくり。出てきたときキター!ってなったもんね。お寺の境内にキャストが勢揃いして、ひとりずつ憑物を落とされていく様はやはり圧巻で、爽快。

あとこれは根本的なことというか知識の問題というか、「切り通し」という地形?がどんなものなのか具体的にわからなくて、最初に疑問を感じたときにググればよかったものをそのまま押し通したせいで、「切り通し」が出てくるたびに脳内で変換できずにそこだけが虫食いみたいになってしまった。これでトリックが解明されたときのスッキリ感は2割減くらいなんだろうなと思います。次からはわからない言葉はちゃんとクリアにして読もう。もったいないことをした!

いやあ、読み応えあったわー。最後の爽快感につい★の数が甘くなりそうですが、心理学うんぬんの辺りでフロイトユングのことが再三出てきてお腹いっぱいになっちゃったので3つです。
また本の冊数かせぎに数冊普通サイズの作品を間に挟み、冬休みあたりから次作「鉄鼠の檻」にとりかかろうと思います。こちら、ページ数約1.5倍に増えていて大変面白いことになってます。背表紙側を床に置いて「自立」した文庫を、初めて見た。立った立った、京極の文庫が立ったよ!

*1:その予想も曖昧すぎるれども