神はサイコロを振らない/大石 英司/★☆☆☆☆

10年前に行方不明になった旅客機が、時間の狭間を通り抜けて10年後に戻ってくる、というタイムトラベルもの。作家についての知識は皆無だけど設定だけがツボだという理由だけでジャケ買い。今ぐぐったら、今年の1月にドラマ化されてた。普段からTVを見ない(我が家にあるTVはゲーム専用でアンテナを繋いでいない)生活をしているので、こういうのにものすごく疎い。

印象としては、まるで略式のノベライズ本かと思うほどのかいつままれ具合。乗客64人のうちピックアップされる実際の登場人物はその一部だけれど、彼ら全員とそれを取り巻く人たちのの3日間のエピソードを200ページやそこらでまとめるのにはやっぱり無理があるんだろうな。とにかく大風呂敷を広げたはいいがどう収集をつけるつもりなんだろう、と見守っていたけれど、まあ、無理矢理なたたみ方でしたよ。あれはないなあ。登場人物をもう少し減らすか、ページ数を増やして一人ずつのエピソードをきちんとまとめ切るか、どっちかにして欲しかった。なんだろな、この、目の粗いザルのような出来具合と、若干のコバルト文庫的なノリ。残念ながら私には合わなかった。設定は好きなのに、もったいない!という気持ちでいっぱい。

受け入れる側の人たちにすれば、飛行機が行方不明(墜落と結論づけられた)になってから10年経つわけだけど、乗客たちにしてみればついさっき飛行機に乗って空港についたというだけのこと。突然10年経ちましたよ、と言われてすんなり受け入れられるわけがないと思うのだけれど、乗客たちが2日やそこらで「あの頃は…だったね」と10年前(乗客にとってはつい昨日とか)のことを語れるまでになっているのがどうしても納得できない。彼らの心の動きも読めないし、登場人物たちの誰にも共感できない。だって、昨日まで自分の妻だった人が別の男性と再婚して子供いるんだよ? さっき見送ってもらった人が死んでるんだよ? そうですか…って、簡単に受け入れすぎじゃないか。この10年間で起きた事件やら科学の進歩などにも、乗客たちがすぐに順応しすぎだし。あと、婦警の寄近のくだりがかなり痛い展開になっていて、座りが悪い。彼女が出てくるシーンだけが異色すぎて、全体がまとまっていない。

TVドラマでは登場人物の役割や設定が大幅に変更されているようなので、ネタだけは原作からもらうけどもとりあえず納得できる形にするためにだいぶ手を入れました的な香りを感じます。ドラマを観た人の感想をぜひとも聞いてみたいところ。

残念だけど、この著者の作品はもう読まないと思います。