少年たちの密室/古処誠二/★★★★★

謎の死を遂げた同級生・宮下の葬儀に向かう途中、地震で倒壊したマンションの地下駐車場に閉じ込められてしまった高校生の男女6人と担任教師。密室の中で起きる連続殺人。宮下の死に疑問を抱いていた優は、犯人探しを始めるが…。

なぜか『盤上の敵』と共通点のようなものを感じるのだけれど、こっちの方が好みに近い感じ。犯人をじりじりと論理的に追いつめて行く緊迫感はたまらない。少年少女たちの心の動きの描写が瑞々しい上に、個々がそれぞれに問題を抱えていて、袋小路から抜け出せずにもがいている様が苦しい。担任教師をはじめとした「大人」に対する漠然とした不信感、そしてそれを見下したような感情、それが少しずつ畏怖へ変化していく様。少年少女たちの青くささと、そのじれったい感じはとてもリアルな感覚で、ああ私にも「自分がもっとも正しい」と信じて疑わず、それでいて訳のわからないものにがんじがらめにされてもがいていた頃があったなあと思わされた。

そして、同じ人間とは思えないほど横暴で非道極まりない城戸、学校というシステムで生き抜くために自分の存在意義を無理矢理見出そうとするその他の存在。確かにそこに存在している「問題」をなかったことにする担任。宮下がそれを新聞へ投書するという感覚がいまひとつ(そこまで新聞の投書欄に社会的な影響があるかどうか)わからないのだけど、まあここで教育機関や世の中の不平不満をあげつらうのは不毛ですかね。まあきっと誰かが提唱し続けることにそれなりの意味があるのだろうな。

犯人にたどり着き、塩澤の醜態をあますところなく見せつけられた時の、大人や担任に対する少年たちの失望は大きかったと思う。期待はしていなかった(あるいは「期待しない」というポーズかもしれないが)とはいえ、やはり目の前でこうして大人の醜い部分を見てしまうのは辛いと思う。それが毎日顔をあわせる身近な「担任」という存在ならなおさらだ。「ああ、やっぱり」「こんなヤツばっかりなら、大人になんてなりたくない」と思うだろう。さらに大人に不信感を抱くだろう。ただひとつの救いは、投書を読み、事件をきちんと直視し解決に導いた記者の「第三の大人」という存在であり、彼が優の傍らで問題を最後まで見届けたことによって少なくとも彼は救われたし、私たち読者もカタルシスを得られた。ただ、根本的な問題は解決されないままだ。大人である私たちが「あるのはわかっているができるだけ見ないでおきたいもの、知らんぷりを通せるものなら通したいもの」としている問題。その存在を改めて告げられたような気持ちになった。

とてもよくできた小説だと思います。面白かった。