花の下にて春死なむ/北森鴻/★★☆☆☆

「読書とは、著者の思考にシンクロすることだ」と、いつかどこかで誰かがそんなことを言っていましたが、ワタクシこの方とはシンクロできなかったようです。
北村薫加納朋子が用いるような、日常における謎を解いていく短編集。探偵役は三軒茶屋のビアバーのマスター工藤で、そこを舞台に常連客たちが謎について喧々諤々やるんだけど、うーん、何なんだろうなあ。スッと入ってこないの、文字情報が。まあ好みもあるだろうし、読んでいる時の気分やコンディションにもよるので、なんとも言えないけど。

これって何かに連載されてたのかしらね? なんか、ビールメーカーのWEB小説っぽいの。行きつけの隠れ家バーで、旨いつまみとこだわりのビール、BGMには気の利いたジャズ、そして酒の肴に謎解きを、みたいな、「ちょっと小粋な大人の嗜み感」が鼻につく。毎回毎回、一通りビールとお店とマスターのエプロンについて説明があって、またかよ、わかったからもういいよ…っていうね。まあ私がビールを飲まないので、ビール好きな人が読んだら違うんでしょうかね。それとこれはやっぱり別ですかね。

全体的に、著者の頭の中で展開されてる(であろう)物語やキャラクターがちゃんとアウトプットされてないという印象が強く、説明が不親切。どの登場人物も魅力的に感じられない。七緒なんて最初男かと思ってたし(ひどい)。工藤の謎解きに関しては、もったいぶって謎をきちんと解明してくれてない感じがするので、欲求不満というか不完全燃焼というか、「ま、ここまで言やわかるでしょ」って、さっさと風呂敷たたまれちゃって、いやいや、わかんねえっつの。解決してねーーーーー!!! うーん、その辺が何ともバカにされた気がしてイラつくんですよ。もっと明快に! 解を! 提示してくれー! あー。というか私の読解力の問題な気がしてきた。

あああと、七緒が職場の男性にプロポーズされる場面で、私がひどくいやな気分になったことだけはお伝えしておきます。って別にお得情報でもなんでもありませんが。あの七緒の心理は、私にはわからん。というかその複雑な同世代の乙女心が丸っきり伝わってこないので。…うーん、何なんだろうなあこの違和感。

まあこれはあくまでも私には合わなかったというだけの話で、たぶん、誰かに薦められない限り今後彼の作品を手に取ることはなさそうです。残念ながら。