夜の蝉/北村薫/★★★☆☆

円紫シリーズ2作目。「朧夜の底」「六月の花嫁」「夜の蝉」の3部構成。
最近読んだ『スキップ』の解説で、「北村薫は男性なのに女性の心理を驚くほどみずみずしく描写する、まさに両性具有的な作家だ」というようなことが書かれていたけど、うーん、どうかな。私はあまりそうは思えない。『スキップ』の真理子にしても『夜の蝉』の「私」にしても、男性が描くからこその女性像という気がする。

北村氏の中にある「10代後半から20歳くらいの、まだ蕾の固いウブな、自らの美貌にまだ気付いていない女の子」という一定の理想像(と私が感じるキャラクタリゼイション)を、私は自分に置き換えることができない。なぜなら私の中にそういった要素が皆無だから。私はどれだけ主人公に共感し感情移入できるかを一つの基準にしているのだけど、私が北村作品にどうものめり込むように入っていけず、文字がつるつるすべってしまうのはそのせいかなと思う。

例えば、「私」が“男性に抱擁される友人の図”を想像し頬を赤らめるシーンでは「んなわけあるかー!」「どんだけカマトトなんだよ」としか思えないのです。というか私が「女心わかってねーな」って反感を抱いているせいかもしれないし、男性読者、いや少なくとも北村氏にとっては「私」というキャラはある意味魅力的なのでしょうけれど。えー、とにかくね、「そんな化石みたいな女は実在しないけど→それが北村ファンタジー」という判断です。

謎解きに関しては、表題作の「夜の蝉」のチケットがらみのアレで沢井さんの腹黒さが手に取るようにわかりますし共感します(そっちか!)。そして三木のバカ面ったらないですね。つまるところ、本当に恐ろしいのは人間そのものなんですよ。(言い切ったー!)
というか謎の内容うんぬんよりも、円紫さんと「私」の関係の方にグッと焦点が絞られてるように思いました。そうか…円紫さん子持ちなのか…禁断の恋が始まっちゃうか…(あれ? 奥さんっていたっけ?)みたいな余計な妄想を働かせてしまいました。今回の3つの短編を通して、「私」はだいぶ「女性」として成長したようなので、次作以降どうなっちゃうのか気になるところです。

あとね、円紫シリーズにおける設定*1は私にとってほぼ関わりのないことなので、どうも今ひとつ踏み込めないしわかんないです。置いてきぼりにされちゃう(無知とバカを暴露中)。あ、でも「八一の物語(?)」は良かったし、きっと知っていけば面白いものなのだろうとは思うのだけど、私には基盤がないのでちょっとハードルが高いです。


そして比べるのは筋違いなのかもしれないけれど、やっぱりというか、私にとっては加納朋子の作品の方が入っていけるし、彼女の連ねるエピソードや揺れ動く乙女心の方に親近感を持つ。女は女の気持ちをやっぱりリアルに描くんですよ。私が山本文緒に恐れおののくのも加納朋子に親近感を覚えるのも、これは本当にただの好みの問題なのです。だから北村作品をけなしているわけではありませんので悪しからず。

*1:寄席とか和歌とか吟とか