アジアンタムブルー/大崎 善生/★★★★☆

前作『パイロット・フィッシュ』と同じ主人公、山崎の物語。過去のエピソードが前作のそれとかぶらないようにできている。2作読むことによって虫喰いになっていた部分を補完し合うような感じ。

カメラマンの葉子の存在と物語の進行があまりにも王道で、行き着くところはたやすく予想がついてしまうのだけれども、それがわかった上でも、いやわかっているからこそ、このドラマを噛み締められるのかもしれない。美しすぎるし、綺麗ごとの羅列なんだけど、人ってわかってて時々こういうものを求めたりするんじゃないですかね。
葉子の撮った水たまり写真の描写がとても素敵で、リアルに脳裏に浮かんでくる。彼女が実在していて個展があったら本当に見に行きたいくらいに。
あと前作のスープを作るシーンは、ここにこう絡んでくるんですね。なるほど。んで時間軸でいうと、このだいぶ後に可奈が転がり込んできたわけで、『人にものを作って食べさせることで「生(せい)」を実感させる』ことの重要さは過去の由起子のアレがあるからで、そして山崎が可奈を保護していたときにはすでに葉子との最後の晩餐、そして彼女の死を乗り越えていたのかと思うと改めて前作を思い出して感慨深くなります。ジグソーパズルが完成していくあの感じ。ううむ、これが山崎というひとりの中年男性を作り上げている過去なのだなあ。まさに人に歴史あり、って、物語の登場人物に対してこれって言っていいのかどうか知りませんけれども。

あと、10代のエピソードに出てきた美術部の先輩(女)のあれは本気でエロい。
(青)の登場はどう考えてもズルイ。
沢井は前作の方が魅力的。

山崎の周辺の人たちはちょっと次から次へと死にすぎじゃないかなとも思うけど、まあ40年も生きていればそのくらいの頻度で人の死に遭遇するものなのかもしれない。

トータルで見て、私は前作も好きだけどこっちの方がより好きかなー。