海の仙人/絲山秋子/★★★★☆

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ヤドカリを飼い、海で泳ぎ、砂を運び、釣りをして収穫があればそれを調理して食べ、仙人のように生きる男。河野の前に突如現れた「ファンタジー」という名のおっさん(何かの神様)との不思議な同居生活。それを取り巻く男女の人間模様。
宝くじで3億円を当てて、仕事を辞めて家賃収入で食べてあとは好きなことだけをやって静かに生きていく河野の生活は、とても魅力的な生き方のように見えるけれど、やっぱり人生というものはバランスが取れるようにできている。彼は誰よりも孤独なのだ。<ネタバレ>実の姉に強要されていた近親相姦というトラウマからどうしても逃れられず、3年付き合って一度もセックスしなかった(できなかった)恋人乳がんで失ってしまう。最後に一度でいいから抱いて欲しいと言う、一生を賭けた彼女の心に応えることができないまま。これが人生最大のラッキーに対する代償だというなら、それはあまりにもひどすぎる話なのだけれども。
乾いたロードムービーのような物語。まあ先は読めちゃうし細かい矛盾点はたくさんあるんだけど(特にファンタジーのからみ)、そういうことに目をつむって全体の色合いみたいなものを味わうにはすごく好きなタイプの物語かもしれない。特にファンタジーが眠るときの様子(明かりの灯ったタマゴに変身する)(私は勝手にダチョウサイズを想像しているのですが)が大好き。
映画になればいいなあこれ。