ブルーもしくはブルー/山本文緒/★★★☆☆

す、吸い取られるーーー。みるみるうちにエネルギーが減りますこれ。
やー、もうこれはホラーっしょ。恋愛小説っていうより恐怖小説。心理的にものすごい恐怖が迫ってくるという意味で。前にも同氏の作品の感想で似たようなことを書いたけど、ドロドロした感情がスライムみたいに侵食してきて、自分の中にあるそういう感情がそれに呼応して吐き気がする。なんでこんなにリアルなの。マジ怖い。

東京で洗練された生活を送るセレブの蒼子(A)が出会った、もうひとりの蒼子(B)。いわゆるドッペルゲンガーの蒼子(B)は、結婚直前まで二股をかけていた恋人と結婚し、博多で質素な主婦として生活していた。どちらの蒼子も現状の結婚生活に満足しておらず、互いの現状を羨むうちに二人は綿密に計画を立ててひと月だけの入れ替わり生活を実行するが…。

要はパラレルワールド? アナザーストーリー? あの時もうひとつの選択肢の方を選んでいたら今頃は…という、誰もが一度は過去の分岐点を回顧してする妄想。それがもし実際にできるとしたらどうか、っていう不思議な物語。

夫の自分への愛が皆無であることに苦しみながらも金銭的に何不自由なく生活するのと、夫の過剰な愛に縛り付けられて時に愛ゆえの暴力を振るわれて生きるのと、どっちがいいかなんて決められない。どっちもイヤだ。けれどもそれが現実なのだから生きていくしかないでしょうと言うのなら、なんと救いのないことか。妥協に妥協を重ね、諦め続けて生きていくことしかできない人生なんて…! 状況はどうあれそれを「幸福だ」と感じられない以上、どんな生活でもそれは不幸だ。
結果、蒼子はどっちの道を行っても幸せにはなれないということを知り「離婚」という新しい選択肢を選ぶことになる。ひとまず脳内不幸スパイラルから抜け出した彼女たちは、いつ「幸福だ」と感じることができるのだろうか。いや、またしばらくしたらその状況を「不幸だ」と感じるのではないだろうか。つまり、人間とは「飽きる」生き物なのだから。

あとがきでは「ハートウォーミングな結末に落ち着いてホロリとさせられる」的なことが書かれているけれど、私はそうは思えない。「諦め」が大前提になっているように思えてならない。前回と同じように、山本氏が描くエンディングは私にとって救いではなく絶望に近いんだなあとやっぱり思ったのです。