煙か土か食い物/舞城王太郎/★★★★☆

煙か土か食い物 (講談社文庫) 詳細を見る


ことこ(id:kotoko)がやたら舞城舞城言っていて、気になって仕方がなかったのでついに読むことにしたのですよ舞城を。で、周りの本読みの人たちに私のファースト舞城は何がいいかとオススメを聞いたら、みんな一様に口をそろえて『煙か土か食い物』だというので(本当は『好き好き大好き超愛してる。』が読んでみたかったのだけど)、書店で文庫をみつけて即買い。

えっと、あまりの感動に何から伝えればいいのかうまく整理できないのだけれど、とにかくものすごく良かったのですよ。「何が何でもまずこれを読め!」と言ってくれたみなさまありがとう!今まで自分がなぜ彼の作品を遠巻きに見ているだけで手に取ろうとしなかったのか、激しく後悔しております。もっと早く知っておけばよかった!

何が良かったって、特にあの文体。ことこは「あの文体が苦手な人はダメだと思う」と言っていて、でも私は幸運なことにあの流れるような文体がするすると入ってきたのでアリだったということですね。リズミカルで勢いがあって、ぐいぐいと引っぱっていかれる感じはとても心地よかった。句点なんてなくても構わない!私を強引に連れていってー!という、なんともたまらない男らしい感じ。
あの勢いにまかせて、息もつかずに読了できる(すべき)本だなーと思いました。通勤の時に読んでいると否が応でも中断されてしまうので、次からは、舞城は腰をすえて読むものと決めたい。

あと、奈津川4兄弟が本当に本当に格好よかった。私はもともとそんなに登場人物に特別な感情を抱くタイプではないのだけれど、この奈津川兄弟に関しては、自分でも驚くほどに、なんというか、恋をしてしまいそうでした。
頭が良くて長身でクォーターでおそらく顔も良くて非の打ち所のないほど完璧で、女をモノみたいに扱って、クールで時にバイオレンスで、でも幼少時代からのトラウマをずっと抱えたまま生きている男たち。そんな影のある男に惹かれる女もいるのですよ。私のように。それがだめんずうぉーかーと呼ばれる所以なのかもしれないけど!むしろ海よりも深い愛情の持ち主と呼んでいただきたい。


父親を逆上させ、ボコボコにされることでしか親子であることを確認できなかった二郎の哀しさ。虐待の連鎖。いつ崩れるかもわからない一触即発の危ういバランスで保たれていた、崖っぷちの家族。肉親に対する愛と憎しみは表裏一体だ。丸雄は敵でもあり、同時に血の繋がった父親でもある。そして二郎は母親からの愛情を求めていたし、丸雄もまたそうだった。二郎は家族を愛しているのに、それを表現する唯一の方法は「家族を皆殺しにすること」だった。

この兄弟はみな屈折していて、病んでいて、けれどもどうにかしてその根本である家族のあり方に区切りをつけたいと思っている。ずっとこのままでいられるはずがないことをわかっている。この連鎖はどこかで断ち切らなければならないことをわかっている。人は死んだら煙か土か食い物。だから、彼らなりのやり方で、家族をリセットしたんだと思う。


二郎が破壊し、三郎が考え、一郎が守り、そして四郎が救う。

方法は違えども、彼らが求めているものはきっと同じものだ。だって彼らは兄弟だから。

これを読むと、男の兄弟の関係も魅力的だわ、と思う。血の繋がった男同士だからこそわかり合えるものがそこにある。きっと彼らは共に戦火の中を歩んできた戦友なのかもしれない。

入り口が良かったので、これからも舞城作品を読み進んでいきたいと思います。