High and dry (はつ恋)/よしもとばなな/★★☆☆☆

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よしもとばななが好きってちょっとベタすぎかなとも思うけど、まぁ好きなのです。私は彼女の作品全体に漂う、透明ですっとした感じが何よりも好きなのです。けれどもなぜか、全作品を読んだのに内容がひとつも思い出せない。読んでいて気持ちがふわーってなる、その感覚ばかりに気を取られて、ディテールや場面が全然残らない。や、それにしてもなんでこんなに覚えてないのか、なんか納得がいかなくなってきた。

もともと彼女の作品にはそれらしき匂いはあったんだけど、ある時を境にどんどんスピリチュアルで抽象的な方へ行きすぎてしまった感がある。まぁそういうのは嫌いではないのだけれども。特に『マリカの永い夜』とか『SLY』あたりからそれが色濃くなってるかな。

ただ、近年、よしもとばななが実生活で出産を経験してからの作品はだいぶ変わったと思う。彼女が母親になってさらに深いものになったとも言われてるけれど、私はその意見にどうしても違和感がある。特に今回の作品は、私の中でとても評価が低い。うまく言えないんだけど、なんていうのかな。え、これ、やっつけ?みたいな。可もなく不可もない彼女のひとり言をえんえんと聞いて、随所に彼女の不文律でもあるキーワードが並んでるなーって思うだけ。そんな印象を受けてしまった。なんか申し訳ないけども。
このばなな節がいいんだよ、とか言っておきながら、型どおりのよしもとばななを出されると「なーんだ、いつものアレじゃん」って、こうやって言ってしまう読者のわがままなんでしょうか。それとも、感じる側の私が変わったのでしょうか。どうなんだろう。

14歳の女の子が絵画教室の先生キュウくんに恋をして、キュウくんも彼女にどんどん惹かれていくという話。ふたりはどこまでもプラトニックで、フィジカルなつながりよりもむしろ魂としてお互いが引き寄せられるような、いわばソウルメイト。で、お互いの母親が我が子を思う気持ちなんかをわーっと出してきて、不思議なことが適当に起こって、みんな出会えてよかったねーって終わっていく。(すいません全然愛情がこもっていませんでした)

私が文脈を理解していないのか、それとも他に問題があるのかどちらかだと思うんだけど、会話の場面で、誰が話している言葉なのかがわからなくなる箇所があまりにも多かった。それは物語うんぬん以前の問題で、文章がちゃんと入ってこないのはすごいストレスで、私は読んでいる途中から集中できなくなってしまった。すごくすてきで大切な言葉もあるのに、それを聞き逃すのは不本意なのですよ。誰がその言葉を発したのか、ちゃんと受け取りたいのに。毎回少し遡って、っていうのを繰り返すのはなんか違うんです。前作ではそんなことなかったのになー。うーん。煮え切らない。
ともあれもう一度、以前の作品を読み返してみます。
あ、あとそういえば挿絵はとっても素敵です。