サバイバー・ミッション/小笠原慧/★★★★★

サバイバー・ミッションISBN:4163233806
久々の★5つ。たまたま自分のハマっているものたちとシンクロして、相乗効果だったのかもしれない。とにかく、ものすごく面白い。異常犯罪者だけでなく、幼少期のトラウマなど心理学についてとても深く掘り下げられていて、興味深い。警察モノと犯罪心理学と近未来が好きな人は読むといいです。
1行たりとも無駄がない、完璧に近いミステリーだと思う。最初から最後まで、まったく息をつく暇もないまま物語は進行していき、後半はドンデン返しの連続。ひと息に読んだ。読み終わった後、しばらく興奮が冷めやらない。すごい本に出会ってしまった。瀬名秀明の『ブレイン・ヴァレー』を読んだ時もものすごい衝撃を受けた覚えがあるが、それ以来のヒットかもしれない。タイトル読みも捨てたもんじゃない。
近未来の日本で起こる猟奇的連続殺人。それを捜査するため特殊任務についた利津。唯一の相棒は、ラップトップの中に存在する高度A.I.のドクター・キシモト。死体の傍に残されている、ソンディ・テストに使われる写真。

ソンディ・テストは以前サイトを見つけて自分でやってみたことがあるが、ちょっとした占いみたいな感覚でやったはずが、その結果は驚くほどに言い当てられていた。このテストの存在とそれが導き出すものが何か、それらを踏まえて読むとなおさら物語に入り込める。
ソンディ・テスト<非公式>

以下、ネタバレ部分は反転で。


全体に漂う印象としては、『近未来版・羊たちの沈黙』。わざとそのパクリ場面を出してくるあたり、確信犯なのだろうけれどやっぱり読んでいて雑念が混じる。確かにクラリスレクターの関係性、そして牢獄で面会するあのシーンはすごいインパクトだし、あの雰囲気みたいなえもいわれぬ不気味な感じ、という情報を読者に簡単に伝えるには一番手っ取り早かったのかもしれない。「これはわざと」と思って読めば、それなりに言いたいことはわかる。まぁ、あの名場面を取り入れているとはいえ、物語はまったく別物として展開していくので、『羊たち〜』っぽいなーと思うのはその一部分だけ。

殺人事件については、読み進むうち自分の見解で犯人像がおぼろげに見えてきたのだけれど、時系列の矛盾を正直に捉えてしまったので否定せざるを得なかった。すべての登場人物に疑心暗鬼になっていたところへ、まさかそんな結論に達するとはね。してやられた。
ただ、クライマックスの犯人vs利津の対決と、犯人の独白はちょっと強引すぎるような気もする。ラストへ向けて、なんだかものすごい勢いでものすごいことになるので、後で冷静になって考えると細かいことが気になってくる。まぁでもあのたたみかけ方はとても興奮したので、勢いで筆が滑っちゃったということで、あまり深く考えないことにしよう。

後で作者のプロフィールを見たら、医学博士で精神科医。なんとプロフェッショナルだった。すごい作家見つけちゃったなぁ。ほかの作品も早速読みます。