西の魔女が死んだ/梨木香歩/★★★★☆

西の魔女が死んだISBN:4101253323

人は生まれながらにして不思議な力を持っている。それを養うには健全な強い精神が必要で、季節を肌で感じ、旬の食べ物を食べ、草花や樹々や風や雨の声に耳を傾けることが大切。自然と共存しながらうまく生きていく、いわゆるスローフードスローライフによって心を研ぎ澄ますということだ。
おばあちゃんはあらゆる場面で精神論を語っているけれど、まったくそこに胡散臭さはない。彼女のつつましやかでまっすぐな生き方はとても自然体だ。そして根本には、まいを含むすべてのものへの深く大きな愛が存在している。魔女というよりも悟りをひらいた仏のようなものだ。
まいはしばらくして登校拒否をやめ学校へ通い始める。いつの間にか魔女の修行は彼女を生きやすい方へ導いていた。
ラストシーンでは、はからずもカフェで号泣してしまった。なんて大きくて素敵なひとなんだろう。なんてさわやかな去り際。私もこんな茶目っ気たっぷりの、かっこいいおばあちゃんになりたい。

***

小学生の頃、ミホちゃんという登校拒否の友だちがいた。学校に来ていないのになぜか私たちは仲良しで、私は彼女の家によく遊びに行った。彼女の家は共働きで、昼間は家にミホちゃんしかいない。
彼女はとてもお嬢様育ちだったのだけれど、二人の遊びはおもに、中学生のお兄ちゃんが部屋に隠しているエロ本を真剣に鑑賞することだった。私は学校で配られたプリントを届けるために、週に一度は彼女の自宅を訪れ、チャンスがあればお兄ちゃんの部屋でエロ本。なければピアノを弾く。なぜ小学生の女子があれほどまでにエロ本に真剣だったのかは今も謎である。
その後私たちは中学生になったが、ミホちゃんは入学式に一度出席しただけで、その後卒業するまで一度も登校することはなかった。クラスも違ってしまったし、私は部活に打ち込んでいて彼女の家を訪れることも減り、秘密のエロ本会議はそのうちなくなってしまった。そして、3年間で1日しか出席しないと、中学生でも留年するということを知った。つまり、私たちは一緒に義務教育を終えることができなかった。
ずっと後になってから、ミホちゃんとその家族(両親・兄・妹)が一家全員で某宗教団体に入り、楽園と呼ばれる社会から隔絶された施設で暮らしているということを風の噂で知った。
私たちの間には、きっと目に見えないガラスの壁があったんだと思う。学校に行けるか行けないか。それは分厚いガラスの向こう側とこっち側で、いくら叩いても壊れることがなかった。私はそれを壊すだけの力がなかった。ただそれだけが切ない。それにもしかしたら、ミホちゃんはそんなことは望んでいなかったのかもしれない。結局、私は何もわかっていない。人の心というものを。救いたい、などと驕った考え方を持つのは傲慢だ。でも。私はミホちゃんのことをわかりたかった。
その後、噂もまったく耳にしないけれど、彼女は精神的に幸せになれただろうか。ガラスのない場所を見つけたんだろうか。そんなことをちょっと思い出してしまいました。