ぶらんこ乗り/いしいしんじ/★★★★☆

ぶらんこ乗りISBN:4652071922
世界中のきょうだいで一番すてきな関係なのは、姉と弟だと私は信じている。
もちろん同性だって兄と妹だってすてきな関係だろうけど、私は弟との関係しか実感できないので、そうなんじゃないかって思っただけ。
弟がまだ小さくて、オムツをつけた大きなおしりをふりながらヨチヨチ歩いている姿や、仔犬を見ただけで「こわい!こわい!」って泣きながら母親の後ろへかくれてしまう姿を、私は今でもありありと思い出せる。
一緒に住んでいた頃はそんなこと思い出しもしなかった。第一、思春期まっさかりの弟なんて正直気味が悪かった。お互いに大人になって家を出て、『おねえちゃん』が『姉貴』に変わり、弟が家庭をもったときに、なんとなく思い出した。

この物語に出てくる「あのこ(弟)」は不思議な力をもっていて、いつもノートに不思議なおはなしを書いておねえちゃんに読ませる。そして、彼はそうやっておねえちゃんの笑い声を聞くことで、世界のこっち側にとどまっていられた。理解なんてされなくてもよかった。隣に姉が座っているだけでよかったのだ。そうでない時の彼はまるでサーカスの空中ブランコのように、たったひとりきりで揺られ、今にもあっち側へ連れていかれてしまいそうな子供だった。
彼らのとうさんとかあさんは、本当に幸せだった。天真爛漫なかあさんを優しくみつめるとうさん。旅先の両親から送られてきた絵はがきには、涙が出るほどに幸せがつまっている。彼らはいつも手をつないでいた。姉と弟はそれらを何度も何度も読み返し、カニを食べた。しばらくして、弟はいなくなった。ひとりで、あっち側へ行ってしまった。
けれど、姉はいつか弟が指の音(犬の名前)に連れられて帰ってくることを信じている。ブランコが向こう側へ行ったらまたこちらへ戻ってくるように。血の繋がったきょうだいとは、そういうものじゃないだろうか。

いつか落ちてしまうかもしれない空中ブランコに揺られながら、命がけで手をつなげる人がいるって、すばらしいことだ。家族だけでなく、きっと恋人も同じ。ちょっと会えない間はさみしいけど、でもまたすぐ離れてしまうからこそずっと一緒にいたいし、手をつないでいる瞬間は何物にも代えがたいのだ。