姫君/山田詠美/★★★☆☆

姫君ISBN:416755805X
短編集。高校生の頃に山田詠美フリークの友だちに影響されて読み始め、大学を卒業するあたりでもう山田詠美も卒業かなと思って読まなくなった。一通りハードカバーは揃えていたし最近山田詠美ダ・ヴィンチに出ていたのを見てちょっと気になったので読んでみた。私は5つのうちの最後のふたつ『姫君』と『シャンプー』が好きだ。

『姫君』
摩周は犯されながら犯している。そして姫子は奪いながら奪われている。そのいびつな関係性は危うさを維持しながらも完璧だった。彼らの凸と凹はぴったり合致していたのだ。けれども如何せん彼らはまだ若かったし、不器用すぎた。離れてみて改めてお互いの必要性に気付いたときはもう遅すぎた。誰かのために「死にたくない」と心から思えたときはもう遅すぎたのだ。


誰かを寂しがらせるよりは、自分が寂しいほうがいい
家族が事故でいっきに死んでしまったとき、摩周はそう言って笑った。姫子はきっと『彼が寂しがるだろうな』と思っただろう。そして形見だらけの彼の部屋には、ピアスとハーモニカが増えた。でも彼は、いつか同じように笑うだろう。摩周は優しくてすこしバカだから。

『シャンプー』
女のためにバカになれる男ほど可愛いくいとおしいものはない。もちろん、愚かであることとバカになることは違う。空の父親も智幸も、まぶしいくらいに空のことが好きなんだなぁと思った。手放しで人のために我を忘れることができるなんて。
私はそんなふうに人に愛されたことがあっただろうか。母は父を、父は母を、両親は私を愛していただろうか。私は彼らを愛しているだろうか。たとえば誰かを愛したことがあっただろうか。その人のために世界一のバカになれたことがあっただろうか。

私は人に依存し、依存されて生きている。その中でもがいて、勘違いを繰り返している。愛はどこか特別な場所に存在しているように思っている。私の今いる場所ではないどこかに。じゃあその愛って何だ。そんなのわからない。「これが愛ですよ」なんて誰かが教えてくれるわけでもない。学校でなんて習わなかった。
何かが決定的に欠けているような私にも、いつかわかる日がくるのだろうか。「これぞ愛だ!」って感じる瞬間が。死ぬまでには一度くらいわかっておきたい。