重力ピエロ/伊坂幸太郎/★★★★☆

重力ピエロISBN:4104596019
伊坂氏は小ネタ師だなぁ。他の作品と登場人物がリンクしてるという小細工。そういう細かいところに気付くと嬉しいという特典がついてくるようになると、コンプしたくなる作家のひとりです。世の中はそうやってつながっている。

遺伝子のつながりや血のつながりという鎖にがんじがらめにされている人は多い。たぶん私もそのひとり。きっと私もあんなふうになってあんな死に方をするんじゃないかとか、自分の未来を彼らに見てしまっているところがある。そうなりたくないと頑なになることが、かえって意識しすぎてそっちへ自分のハンドルを切っている。自転車で道路と溝のふちギリギリを走っていると、ダメだダメだと思っているのにそこから戻ってこれなくなって溝に落ちる。
母親をレイプしている男を殴り殺す悪夢。彼を殺してしまったら自分は生まれてこない。どんな親でも、彼らがいなかったら私はいまここにいない。だからといって、私となる精子卵子を出会わせたからといって、確かに彼らは私の両親だけれども、どんな親でも感謝すべきなのだろうか。たとえば彼らが虐待者だったりレイプ犯だったりアル中で酒乱だったり浮浪者だったり猟奇的殺人をする親だとしても?本当に隣の芝生の方が青いのではないか?そして彼らの子である自分にも、そうなる遺伝子が組み込まれているのだろうか?
春はそれを断ち切った。遺伝子の鎖を断ち切ることができることを見せてくれた。なぜなら彼は、生きたいと願うひとりの人間だったからであり、彼を育てた人たちに恵まれていたからにほかならない。彼らの芝生は本当に美しい青だった。人格を形成するのは血や遺伝子ではなく、環境とそして自分自身なのだ。でもその方法は本当に正しかったのだろうか。他に方法がなかったのだろうか。本当の父親をわざわざ探し出さずに生きていくことはできなかったのだろうか。やっぱりそこに行き着くのだろうか。
私はまだスパイラルから抜け出すことができないし、この先もずっと悩み続けていくだろう。彼らほどひどい境遇ではないし、だからこそ簡単に割り切れないからだ。ただ、自転車のハンドルをもう少しだけ溝ではない方に切ってあげられれば、溝に落ちることはなくなるというくらいだ。もう少しだけ遠くを見れば、それくらいはできるかもしれない。