沈黙/アビシニアン/古川 日出男/★★★☆☆

以前読んだ『13』では色彩がテーマだったけれど、今度のテーマは音と匂い。古川日出男は“感覚”を題材にするアートな作家、というイメージが固まりつつある。
「沈黙」の主人公の薫子も弟の燥も、そして「アビシニアン」のエンマも、いろんなところを渡り歩いて、どんどん変化しながらぐんぐん進んでいく。その様は読んでいて面白い。修一郎の持つ「獰猛な舌」を駆使した映画作りのシーンはかなり興味深かった。
薫子は人生の結晶としてルコを見出すが、その代わりに大きなものを失う。エンマは文字を失う代わりに、大きなものを得る。登場人物たちの、本当に自分に必要なものを見つけるための消費エネルギーの大きさに圧倒される。
全体的に次元が高くて私の脳みそがついていけてないので、読み終えるまで非常に時間がかかった。特に自己の内面と対峙する哲学的な場面や、感覚の海にトリップするような場面が電波的というか紙一重な感じがして若干引いてしまうのよねえ…。
私はどちらかというとシンプルな「アビシニアン」の方がわかりやすくて好きかも。マユコさんがピザを作るまでのシーンとか好きだ。でもこれは恋愛小説ではないと思う。エンマってそういう次元の存在じゃないんだよなあ。