最悪/奥田 英朗/★★★★★

正直、奥田英朗をナメてた。
イン・ザ・プール」、「空中ブランコ」、はいはいテレビドラマとか映画意識してるタイプねー、それなりによくできててそこそこ面白くて、万人受けするし、最近売れてるよねー。何も考えずに読む分には楽しくていいんじゃないのー? まあ世俗的だけどね、っていうような位置づけをしてたんですよ。自分の中で。そしたら、「真夜中のマーチ」の解説で北上次郎

これが、あの最高傑作「最悪」を書いた人の作品なのか? あまりに印象が違ったので正直驚いた

というようなことを書いていたので、へー、じゃあその北上氏いわく“最高傑作”の「最悪」とやらを読んでみようじゃないの、と手に取ったら、なるほどこれは確かに面白い。上述の作品とは文体も違って、本当に印象が180度違う。なんだ奥田英朗、こういうのも書けるんじゃないの! と、言い方はおかしいけど見直した。今まではおふざけエンターテイメント小説しか書けない人だと思い込んでた。だから荻原浩と似てるとか適当なこと言ってた。いや、荻原浩にも失礼か。


銀行員の藤崎みどり、町工場の社長さん川谷信次郎、チンピラの野村和也、3人ともそれぞれ日常のちょっとしたことから坂道を転がるように物事は悪い方へ進み、最悪の事態を招くことに…。という、人の不幸をこれ以上ないくらい不幸に、いや不運に描いてあるんですけれども。彼らの追い込まれっぷりがもう何ていうか、隙がないっていうか、どんどん袋小路に入っていく、ああここもまた行き止まり、ここも…って目の前が徐々に真っ暗になっていく感覚やテンパり方がリアルすぎて、ハラハラするのと同時に自分も追い込まれていくような錯覚に陥る。
イメージとしては東野圭吾の「白夜行」っぽい。いや、うーん、正確には全然違うけども、なんだろ、ガツンとくるボリューム感が似てるっていうか、犯罪小説だからそう感じるのか。群集劇だからか。うまく言えないけど、「白夜行」が好きな人にはオススメしたい。
ってことは、「邪魔〈上〉〈下〉」も必然的に読まねばなるまい。いやあ、ちょっと意外な展開になってきた。まじで奥田の見方変わったわー。