アルゼンチンババア/よしもと ばなな/★★★★☆

近所にある通称アルゼンチンビルに住んでいる謎のおばさん“アルゼンチンババア”と、伴侶を失ったばかりの自分の父親が同棲していると聞きショックを受けるのもつかの間、アルゼンチンババアことユリさんのかもし出す雰囲気に飲まれ、気付けば二人のもとへ通い、汚い部屋の汚いこたつにもぐりこみ何となく3人でボーっと過ごしてしまうような、結果としてそれが淡々と父である彼とみっちゃんの癒しに繋がっていくような、非常にまったりとした物語。

High and dry (はつ恋)」以来よしもとばななからずっと離れていて、すっかり“昔好きだった作家”というくくりになってしまったのだけれど、なんとなくタイミングが合って読んでみたら案外私の好きなよしもとばななが健在だったので、なんだかとても安心した。

よしもとばななが描く、ちょっと不思議な人たちと、そうでない普通の人たちが何ともなしにミックスされている日常みたいなものが、どうやら私は好きみたいだ。みっちゃんの父親が「宇宙の仕組みについてわかっちゃったんだけども、言葉では伝わらないしわかってもらえないだろうからおれは曼荼羅を作って説明する」という考え方や、死んだ彼の妻が好きだったからという理由だけで一族の墓をイルカ型に作り変え、遺された父娘が墓石を洗うシーンのほんわり感みたいなものに、私は強く心を揺さぶられる。そういう、アートを意識していない結果としてのアートを生み出せるような人に、私が個人的に強く憧れているからなのだろうか。それとも私自身が父親と娘という関係をうまく構築できていないせいだろうか。
とにかくこれを読んでいると、五感が研ぎ澄まされるような気がしてくる。久々にバランスのいいばなな節に浸れたので、おおむね満足。ただ、短い。もうちょっと長い物語を読みたくなった。