亜愛一郎の狼狽/泡坂妻夫/★★★★☆

探偵モノのコメディ。8話から成る短編集。亜という変わった名のカメラマンは、見目麗しき美青年なのにものすごいドジッ子でどうしようもなく格好悪い。ところが侮るなかれ、彼がひとたび白目を剥けば華麗に(というか本人は及び腰なのだけど)事件の謎は解けているという、絵に描いたようなギャップ萌えの対象です。

全体的な印象としては、これぞ古典という感じ。時代設定が古めだからそう感じただけかな? とにかくコミカルでユーモラス、スピーディな展開はテンポが良い。特に6話「掘出された童話」では、挿絵作家の一荷と亜のやりとりが面白すぎて好きです。謎解きは意外な展開を見せてくれるのでこれも興味深い。泡坂氏はおそらく相当の変わり者なんだろうなあ。奇術が大好きだそうなので、人をあっと驚かせるのが本当に好きなんだと思う。たぶんおもしろいジイさん(失礼)。死ぬときに壮大なイタズラを仕掛けて、親戚中に「あいつめ…」って苦笑されるような。あ、あくまでもイメージですよ。

ちょっと亜が謎すぎるんだけど、周りの登場人物たちの亜とのやりとりを読んでいるうちに、本人の翻弄されっぷりとか天然っぷりが、いつの間にか魅力に思えてくるというか、放っておけない気持ちになっています。危なっかしいところとか、見るからにダメっぽいところとか…。『ケイゾク』でいうところの柴田とかぶります。おずおずと「あのぉ〜、犯人わかっちゃったんですけど…」って言うあの感じです。お、無性に『ケイゾク』が観たくなってきた。