葉桜の季節に君を想うということ/歌野晶午/★★★★☆

先日ひょんなことから同著者の『女王様と私』という本を頂きました。けれども歌野晶午について何の前知識もなかったので、ことこ(id:kotoko)から彼がいくつかの作品を経て『葉桜の季節に君を想うということ』に至った経緯を簡単に聞きまして。とりあえずこちらを押さえとこうと思い、ついでに(id:amaikoi)さんのオススメリストを再度確認したらしっかり入ってました。つうかそろそろスパートかけないと今年中にリスト消化できる自信がなかったのでラッキーです。ちなみに現時点での消化率は18/35で、なんと9月にしてよくやく半分。数字で見ちゃうとちょっと本能にまかせてだいぶ寄り道しすぎたなあというか思えば遠くへ来たもんだ感が拭えませんし、私の計画性のなさは小学生以来変わってないってことがわかってなおさら感慨深いです。夏休みの最初に立てた計画を実行に移せたためしがない子供は私みたいな大人になります。

さて肝心の感想なのですが、まだ未読の方はできるだけ読まないほうがいいと思いますので事前にエクスキューズしておきますよ。では以下ネタバレしまーす。



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つかおい、なんじゃコレーーーー!!!! っていうタイプ叙述トリックいやまあ冒頭からすっかりヤられてしまったのは他でもない私なのですけれども。素敵ロン毛筋肉質の主人公成瀬がきっとクールかつ男らしく数々の女をたぶらかしながらドラマを展開していくのだわ…ポワワン…となってしまい、催眠商法の悪事を暴いたり暴力団に潜入捜査したりフィリピン人妻と知人との間に生まれた娘の消息をたどったり敵につかまりそうになって格闘する成瀬の行動をハラハラしながら見守ったりヒロインらしき女の影に多少なりとも嫉妬しつつ読みふけっていたわけなのですけれども。

メイントリックが明かされた瞬間、すべてがもうどうでもよくなります。すっげー萎えるの。冒頭のセックスシーンから実はあれ全部70歳のじいさんだったのかよ、と思ったらキモイんですよ申し訳ないですけれども。や、もちろん老人たちのパワーを否定するわけでもないし、恋をしたっていいし、恋をすりゃ嫉妬だって駆け引きだってするし、セックスだってするでしょう。それはもう自由ですからいいんです。けど! けどさあ! っていう筆舌に尽くしがたいやりきれなさでいっぱいなのです。登場人物が全員老人だったという、この浦島太郎感。そう思ってしまう自分への嫌悪感。つうかもうなけなしのこの私の美意識が許さないんですよ。その後の「葉桜の美しさ」うんぬんのフレーズなんて、もうはっきり言ってどうでもいいですし説教めいてて何一つ頭に入ってきませんでした。作者の思うツボにまんまとはまりまして、ここで読者が全員萎えることを計算してかその後エンディングはほんの数ページで終わるし、本当に何が書いてあったのかなんてもう覚えてません。
ばかー! ばかー! 私の想像してたナイスガイ(想定年齢30代前半)をまるまる1冊分返せー!

というわけで、最初の1行目からがっつり騙されて、エンディングで読者からこれほどにわかりやすい反応を引き出しという意味では、この叙述トリック素晴らしかったといわざるを得ないでしょう。くそう…! よくできてやがるぜ…!