あなたには帰る家がある/山本文緒/★★★☆☆

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今月はまったく本が読めない病気にかかっていました。3冊ってどういうこと。いろいろうつつを抜かしすぎ。

山本文緒は乙女小説だと聞いていたので、てっきりキラキラきゅんきゅんくる恋物語だと思って読み始めたのだけれど何かの勘違いだったようで、気付いたらそんじょそこらにいる大人たちのリアルこの上ないドッロドロの世界が展開されていたのでこれはまずいと思いました。物語の世界に現実逃避してボーっと酔いしれてる場合じゃありません。現実をつきつけられます。読んでてものすごくいろんなものをえぐられるというか。いるいるこういう醜い人たち。つーかお前だってどうせ同じだろ。なに客観的にとらえて偽善者ぶっちゃってんの腹ん中じゃ唾だの毒だの吐きまくって真顔で死ねよとか思って他人を軽蔑してるくせにっていう。それを思いっきり繰り出してこられては否が応でも自分のそういった黒々しい部分と向き合わざるを得ないのでかなりきついです。思い当たる節がありすぎて。

あまりにもリアルなので、山本氏は私のことを書いているに違いない、って思っちゃう読者がいっぱいいそう。これは間違いなく私のことですねって自分語りが便箋20枚にわたるファンレターなのか何の相談なのかわからない手紙とかちょう届きそう。気持ち悪い品物とかも送られてきそう。大丈夫か山本さん。そんな余計な心配をしてしまうくらい、登場人物に共感できすぎて怖いです。

私の中で、山本文緒=「人間の醜い心理をこれでもかとリアルに描写する人」というイメージが植えつけられました。割とじわじわと黒いものが浸透してきて気付けばどーんときてしばらくブルーになるので、彼女の作品は心に余裕のあるときに読むべきだと思いました。ラストのあれが救いだとするならば、私にとってそれは救いではない。