BIG RIVER/@青山劇場/★★★★★

BIG RIVERISBN:B000002O4T
大学時代に寝ても覚めても舞台にハマっていた私が、このブロードウェイ来日公演に行かないはずがない。RENTの来日公演以来、8ヶ月ぶりのミュージカル。しかもBIG RIVER。今回は原作も読了したし、字幕にとらわれず純粋にミュージカルが楽しめる。これは大正解だった。
ろう者と健聴者で構成されたミュージカルだったので、純粋なBIG RIVERじゃないかもしれないな…という不安が少しだけあったが、のちに私は一瞬でもそう思った自分をものすごい勢いで恥じることになる。
開演すると、音楽が演奏され、役者はセリフを語り、歌い、踊る。ひとつだけ普通のミュージカルと違うのは、全員が同時に手話で話しているということだ。最初は不思議な感覚だったが、ややもするとすぐ手話を手話と意識せず普通に見ることができた。むしろ、ユニゾンでは全員が同じ手話をするため、手話がまるでダンスのように見えた。そして私の大好きなハックとジムの2人ハモリ曲『River in the Rain』は世界一美しく私の心を揺さぶり、アリスの『Crossing』は魂そのものといえるものすごいゴスペルだった。私は感動のあまり動けなかった。
1幕が終わったとき、オペラグラスを持参した友だちが「ハック、歌ってない」と驚くべき発言をした。そんなこと、ありえない。だって、あのハックとジムのセリフのやりとりやピッタリ息の合ったハモりは、あのふたりの距離感と空気感だからこそだよ?私は2幕が始まってすぐ、オペラグラスを覗いてみた。私たちは2階席だったのでそれまで気付かなかったが、そこには、まったく口をあけずに話し、歌うハックが存在していた。私は、落雷にうたれたような衝撃を受けた。よく見ると、なんとキャストの半数以上がろう者で、ステージ上の別の人物(健聴者)がまったく別人の役を演じながら、ろう者のセリフをアテレコのように吹き替え、歌っていたのだ。もちろん、主役のハックも。
それを知った瞬間、私は鳥肌が立った。耳のきこえない人たちが、寸分の狂いなく演奏に合わせて歌い、踊り、演技し、話しているように見せるという演出の完璧さに。観客に1ミリの不自然さを引き起こさせることなく、だ。そこまで完璧なステージングを、私は過去に見たことがない。
クライマックスで、出演者が全員で歌うシーンで、歌のリピート中に全く無音になる瞬間があって、沈黙のなか手話だけが繰り返されているところが10秒くらいあったのだけれど、今この瞬間、耳のきこえない人はこういうふうに舞台が見えているんだ、ということをものすごく実感して、なぜか涙が止まらなくなってしまった。すごい。音のない世界に、確かにミュージカルが存在していた。
冒頭で、ジムがハックに


『おれたちは共にひとつの河を下っているが、そこには2つの世界が存在していて、それらは決して交わることがないんだ』
と言った言葉の意味は、ふたつあったのだ。
私は、わかったようなフリをしていただけで、実はその瞬間まで何もわかっていなかった。そして、自分をものすごく恥じた。