ハックルベリ・フィンの冒険/マーク・トゥウェイン、翻訳:大久保博/★★★★☆

ハックルベリ・フィンの冒険ISBN:4042142060
青山劇場で『ビッグ・リバー』来日公演を観るための予習。ギリギリで読了。
読んでみてやっぱり私は翻訳本が苦手だなぁと思うのだけれど、そんなことはすっぱりさておいて、これが素晴らしい作品であることに変わりなかった。物語が素晴らしければ、言葉の細かい印象なんて取るに足りないことで、脳内変換でどうにでもなる。
そして、大人になってから読むととても深い物語だということに気付かされる。黒人奴隷問題やその時代における道徳・価値観の違い、文化、宗教、ハンディキャップ、親子間の様々な問題など、実はすごく重たい問題がたくさんちりばめられている。まだ私が小学生になるかならないかの子供だった頃にアニメでしか見たことがなかったし、その頃はそういった様々な問題なんてまるで気付かなかった。中高生くらいの段階で一度原作を読んでおいてもよかったかもしれない。そうすればまた一味違っていたと思う。


アル中DVの父親から解放されるべく殺人事件をでっち上げて逃げ出し、逃亡奴隷のジムとふたりでミシシッピをいかだで下り続けるハック。昼間は陸に上がって身を隠し、夜になると河を下る。そして様々な人々と出会い、冒険が繰り広げられる。
河の流れにいかだをまかせ、仰向けになればそこには満点の星空が輝いている。ミシシッピはどこまでも広く大きく流れ続け、目の前に広がる宇宙は果てしない。そしてハックは旅を通してひとりの人間としてどう生きるかを考え、気付き、学んでいく。そこには彼なりの哲学がある。ひとがひととして生きていくうえで本当に必要なものが何なのか。彼はそれを頭ではなく心と身体でわかっている。余計なものをそぎ落とし、人と関わり、大自然と対峙することで、厳選されたものの輪郭がハッキリ見えてくるということを。


70〜80年代のあらゆるメディアは私の中身を形成するうえでとても重要だったし、中でも特にTVが占める割合が一番大きいのだけれども、今でもその黄金時代に成長し、21世紀へまたがって現在に生きていることをラッキーだと思っている。
『ハウス世界名作劇場』は、今考えればキリスト教の匂いがプンプン漂ってくるアニメシリーズだけれど、当時男の子たちと野山を駆け回っていた私は純粋に『トム・ソーヤーの冒険/1980年フジテレビ』にハマっていた。あまりに大好きすぎて、最終回が来ることを泣いて嫌がったほどだ。この物語に終わりが来るなんて信じられなかった。私はトムよりも断然ハック派で、トムの冒険の後は絶対にハック編があるに違いないと思い込んでいて、放送されたというデータはないのに私の記憶では放送されたことになっていた。しかもハック編が大好きだった!という記憶のねつ造さえしていた。そして事実を確認した今もなお「いや絶対に放送されたはず」という根本的なところは何ら変わっていない。