アンテナ/田口ランディ/★★★★★

アンテナISBN:4344402472

文字を読んでトランスする。
彼女の小説を読み終わってから自分の意識が現実へ引き戻されるまでに、いつもすこし時間がかかる。
『コンセント』でまんまと田口ワールドにハマり、『アンテナ』でそれを確信した。
またシャーマンかよ、と思うのに、やっぱりずぶずぶと意識の沼みたいなところに引きずり込まれてしまう。トラウマとか哲学とか新興宗教とか自殺とか幼女とか、自傷とかゲイとか拒食とかSMとか風俗とかオーラとかオカルトとか精神病院とか変態とか、そういうものを読むことにのめりこんでしまう心理って、誰にでもあるんだろうな。少なくとも私にはあるし、他にも読む人がたくさんいるからそうなんだろう。
確かに新潟の幼女9年間監禁事件は衝撃的だったし、ものすごい勢いでニュースやらワイドショーを見た。日本を震撼させた恐ろしい事件の裏側にある隠された真実やら当事者たちのことを、下世話なコメンテーターが好き勝手に分析したり決めつけたりしているのを、私も下世話に見たり聞いたり想像したりしていた。
精神科の医師は、同時に患者でもある場合がある。もちろんそれは少数だと思うけども。自分の心の闇をつきつめていくうちに精神医学や心理学や哲学の世界へハマって、プロフェッショナルになるということもあるんじゃないだろうか。あっち側とこっち側の境目なんて、すごく曖昧だと思う。
自分がまともな人間かどうかなんて、誰にもわからない。自分にだってわからない。でもわからないなりに人間は表面的にまともであり続けようと心のバランスを保とうとして生きている。
この作品のラストに破滅がこなかったことに、私はものすごく救われた。ありえないオカルトだけれども、はたから見たら彼らはキチガイで不幸な家族なんだけれども、アブノーマルで緊迫したエロスに満ちあふれているんだけれども、物語としてちゃんとカタルシスが得られたことに救われた。その感覚に酔っぱらえるのが田口流なんだなぁ。
物語の中でソンディ・テストについて言及されていた。偶然だけどついこの間そのテストをやったばかりだったので(結果)、お、と思った。