ドラゴンフライ/室井佑月/★★☆☆☆

ドラゴンフライISBN:4087745260
『TVのチカラ』という、やたらムカつくんだけど見てしまう番組に室井佑月がレギュラーコメンテーターで出ている。作家ということは知っていたけど、彼女の作品を全く読んだことがないし、そういえば一体どんなものを書いてる人なんだろう、それだけが知りたいがために読んだ。
銀座のホステス。虚構と嫉妬とねたみと金と、裏社会につながっている世界でしか生きていけない人たちと、そこを通り過ぎていく人たちの話。そういえばそのTV番組でも「私、おミズの仕事してたことあるんですけどォー」ってコメントしてたな。
このテの話を読みたいモードではなかったので「ふーん」という感じ。花村萬月が大絶賛という触れ込みは、裏社会の話題と「それでも僕らはこの世界で生きていくしかない」という作風が似てるからかな。本気で絶賛してるかどうかは知らないけど、花村萬月の『ぢん・ぢん・ぢん』は読みごたえあったなぁ。
19歳のとき、歌をうたう仕事がしたくて、アルバイト情報誌に載っていた『シンガー募集』に応募して面接に行ったら高級クラブだったことがある。銀座じゃないけど。面接のためお店に足を踏み入れた途端、「ここは私の来るところじゃない」と瞬時に判断したので、テキトーに相づちをうって即帰ってきたら、明日から来てくれという返事がきてしまった。とりあえず歌だけうたえばいいか、と思っていたら、やってることはまんまホステスだった。3日で辞めた。よく3日通ったなぁと自分でも思う。
辞めた理由は、


・誰でも知っている曲をカセットテープのカラオケで歌わないといけない(客層を考えると懐メロのレベル)
・歌をうたうのは1日2回のショウタイムだけ(それ以外の時間はホステスとしてテーブルについて客の世話をしなければいけない。ホステスをやってる時間の方が圧倒的に多い)
・しかも中央にある変なお立ち台みたいな狭いステージで360度お客に囲まれて歌わなければいけない
・制服のスーツがあって毎日変わるため、クリーニング代が時給の半分もっていかれる(=半額の時給で雇われている)
・酔っ払いのオッサンがキモイ上にしつこい上に高い金払ってるからってモト取る気マンマンでがっついてて何が会員制の高級クラブだよ!つうか人の太もも触んじゃねえよ!ったく紳士的な客なんていやしねぇ
・女子更衣室での女同士のやりとりが恐ろしい(とにかく上下関係がひどく厳しくて、本気のイジメとかハブがある)
・とにかくここは私のいる場所じゃない(ここで歌をうたう意味はまるでない)
とにかく当時の純情な私には、絶対ムリなバイトでした。頑張って通った3日でネタはたくさん仕入れたし、歌は他でうたおうと心に決めた。私はホステスをやろうと思ってその店に行った訳では決してないし。たとえばそれがきっかけで開眼することもないし、だいいち私はホステスをやれる程のタマではない。あの仕事はヤワなハートじゃできない。そうとうな気合いで挑む仕事だと思う。
まぁこの作品を読んで、ちょっとだけあの当時のことを思い出したりした。銀座と横浜じゃ全然次元が違うけど。
それにしても室井佑月、あの番組出ないほうがいいんじゃないかな。勝手に言わしてもらうと。